最近、顧問先企業よりパワーハラスメント、いわゆるパワハラに関する相談が増えてきました。

相談内容についてあまり詳しく説明できませんが、「上司が部下にパワハラをしたので、懲戒等何らかの処分ができるのか?」という内容や「パワハラについて社内ルールが決まってないので、規程して欲しい。」や「〇〇という事があったが、パワハラに該当するのか?」などの相談も多くいただきます。

そこでパワハラについて少し説明します。

厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」は、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」と定義しています。

具体的に分類分けすると

1.暴行・傷害(身体的な攻撃)
2.脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3.隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4.業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5.業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6.私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)


としています。(これ以外の行為は全て問題無いという意味ではありません。)

パワハラは、セクハラと違ってその範囲が非常に特定しにくいものです。
セクハラは、女性労働者への卑猥な言動など、分かり易く、基本的に全てがNGです。
それに比べパワハラは業務指導との区別がつきにくく、これは指導なのか、業務命令なのか、その限度を超えているのかという判断が非常に難しくなります。

具体的な判例を紹介します。

■「パワハラと認定された例」

・農協の係長を務める男性労働者が、長時間労働が続いていた上に、上司から「こんなこともできない部下はいらんからな。」と3時間にわたって叱責され、翌日に自殺した事件で、農協の安全配慮義務違反が認められた(釧路地帯広支部判H21.2.2労判990.196)

・基本的業務をミスした管理栄養士が、上司の叱責を原因として適応障害になった事件。裁判所は指導の必要性を認めつつも、上司が「もうあんた要らないよ。」「一緒にやってるとイライライライライライラしてくるのよ。」などと言うことは、指導というより嫌悪の情が直接現れた言動というべきであるとして損害賠償義務を認めた(東京地判H21.1.28)

・システム会社の社員のパソコン技術が低かったため、会議の席上で上司から「あなたの仕事ぶりは稽古事のようだ。稽古事について指導をしているのであるから月謝を支払え。」等と言われ、抑うつ症に罹患した事件で、上司及び会社の不法行為を認めた(東京地判H22.1.29)

■「パワハラと認定されなかった例」

・労働者が喫煙のために無断で外出したり、セクハラ発言をしたことについて、上司が注意喚起メールを送ったことはパワハラに当たらないとされた(東京地判H20.4.15)

・損害保険会社の従業員が、上司から顧客との間でトラブルについて「てめ一何様のつもりだ」等と恫喝されたと主張して損害賠償を求めたところ、恫喝の事実は認められないとしパワハラの成立を否定した(東京地判H20.10.21労経速2029.11)

・職場から2時間ほどの出張先に出かけた労働者が、午後1時に仕事を終えそのまま帰宅した件について、上司が「出張先を何時に出たんだよ。2時間の休暇を出せよ。」と命令口調で言ったことについて、やや穏当さにかけるとしても、職員服務規律に基づく正当なものであったとしてパワハラに該当しないとされた(東京地判H21.12.22)

上記のように判例によって様々な判断があります。
荒々しい言葉遣いだけで直ちにパワハラになるわけではありませんが、人格攻撃につながる恐れもあるので、十分注意するように従業員に指導しなければなりません。

また、事業場が長時間労働を実施していた場合、本来パワハラと認定されない場合でも認定されてしまう可能性があります。

パワハラを回避するために色々注意する事はありますが、以下の3点に絞って業務指導をするように従業員教育を徹底してください。

■人格攻撃にならないように
①業務に沿った具体的な指導
②結果よりもプロセスを指導

■長時間労働の抑制
③時間管理の徹底(長時間労働にならないように)

パワハラは、その従業員の尊厳や人格を侵害するだけと考えられがちですが、実際は職場の活力や生産性の低下など様々な損失をもたらします。
また、パワハラによる職場風土の悪化は、優秀な人材の流出や、企業イメージの低下などマイナスを企業にもたらします。

私がサラリーマン時代、パワハラが全く無かったかと言えば疑問が残るのは事実です。
でも、今は時代が変わり、パワハラに対する社会的認知度もアップし、訴訟に発展するリスクも上がっています。

「最近の若い者は・・・」と言う上司の方、今の時代を受け入れられない旧式なだけなのかもしれませんよ。
大きな視野で企業の本当の利益を考えてみてください。

従業員教育が必要な場合は、当事務所までご相談ください。

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先日、独立開業した税理士さんの事務所へ挨拶がてら遊びに行きました。
中々いい場所で、羨まし~。

私も頑張って早く引っ越ししたいものです…。

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