最近、立て続けに個人の依頼者から「傷病手当金」についての相談がありました。
少し整理して説明します。
まず、日本では皆、何らかの医療保険制度に加入しています。
1955年頃まで、農業や自営業者、零細企業従業員を中心に国民の約3分の1に当たる約3,000万人が無保険者で、社会問題となっていました。
しかし、1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まり、「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられる体制が確立しました。
これを「国民皆保険制度」といいます。
公的な医療保険は大きく二つに分けられます。
一つは会社員が加入する「健康保険」、公務員の「共済保険」、船員の「船員保険」のように、組織に雇用されている人を対象とする「被用者保険」であり、もう一つは、自営業者や被用者保険の退職者などを対象とした「国民健康保険」です。
※その他75歳以上の高齢者を対象とした「後期高齢者医療制度」や健康保険事業を公法人で行う「健康保険組合」、同種の事業・業務の従事者を組合員として組織される団体「国民健康保険組合」などがあります。
一般的な会社員が加入する「健康保険」には以下のように様々な給付があり、その中の一つが「傷病手当金」です。
被保険者に対する給付(保険料を収めている本人)
①療養の給付
②入院時食事療養費
③入院時生活療養費
④保険外併用療養費
⑤療養費
⑥訪問看護療養費
⑦移送費
⑧高額療養費
⑨高額介護合算療養費
⑩傷病手当金
⑪埋葬料(費)
⑫出産育児一時金
⑬出産手当金
被扶養者に対する給付(保険料を収めている人が扶養している者)
①家族療養費
②家族訪問看護療養費
③家族移送費
④高額療養費
⑤高額介護合算療養費
⑥家族埋葬料
⑦家族出産育児一時金
「傷病手当金」は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
■支給される条件(次の①から④の条件をすべて満たす事が必要)
①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります。また、自宅療養の期間についても支給対象となります。ただし、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外です。
②仕事に就くことができないこと
仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。
③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。また、就労時間中に業務外の事由で発生した病気やケガについて仕事に就くことができない状態となった場合には、その日を待期の初日として起算されます。
④休業した期間について給与の支払いがないこと
業務外の事由による病気やケガで休業している期間について生活保障を行う制度のため、給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
※任意継続被保険者である期間中に発生した病気・ケガについては、傷病手当金は支給されません。
■支給される期間
傷病手当金が支給される期間は、支給開始した日から最長1年6ヵ月です。これは、1年6ヵ月分支給されるということではなく、1年6ヵ月の間に仕事に復帰した期間があり、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなった場合でも、復帰期間も1年6ヵ月に算入されます。支給開始後1年6ヵ月を超えた場合は、仕事に就くことができない場合であっても、傷病手当金は支給されません。
■支給される傷病手当金の額
傷病手当金は、1日につき被保険者の標準報酬日額の3分の2に相当する額(1円未満四捨五入)が支給されます。標準報酬日額は、標準報酬月額の30分の1に相当する額(10円未満四捨五入)です。給与の支払があって、その給与が傷病手当金の額より少ない場合は、傷病手当金と給与の差額が支給されます。
(例)標準報酬月額300,000円(標準報酬日額=10,000円)の場合 1日につき10,000円×3分の2=6,667円(50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は切り上げる)
■資格喪失後の継続給付について
資格喪失の日の前日(退職日等)まで被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態(①②③の条件を満たしている)であれば、資格喪失後も引き続き支給を受けることができます。ただし、一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。
■傷病手当金が支給停止(支給調整)される場合
・傷病手当金と出産手当金が受けられるとき
・資格喪失後に老齢(退職)年金が受けられるとき
・障害厚生年金または障害手当金が受けられるとき
・労災保険の休業補償給付が受けられるとき
長いサラリーマン生活、病気やケガになることもありますし、最近ではメンタル不調による休職も増えています。
冒頭で説明した医療保険制度全てに所得保障である「傷病手当金」が支給されるわけではありませんが、被用者保険では支給されますので、何かあった時のために概要だけでも押さえていただければと思います。
デリケートな内容を含む場合もありますので、詳しくは守秘義務のある専門家、当事務所までお気軽にご相談ください。
(2015/2/18現在の法令による)